#1 Tri O stella

Tri O stella

どこかの星、どこかの凪の海。遠浅。
空から光が降ってきた。
年に一度、今日は空から光が降ってくる。
それは暖かくて、大好きで。
私は海を翔ける。毎年この季節を待ち望んで止まなかった。
空から落ちる虹色の。あの人の思いが、空を舞う。
幾つも光が螺旋を描き、宙へ消えると一つ落ちた。
いくつもの思いが水面を漂う。
私は一つ、思いを掬った。
思いは光を帯びて空へと還る。
幾度漂いあの人のところへ。
いつか届いて、通いますように。

#2 Libra star

Libra star

「どうしましたか」
抱くよりも大きい丸窓にて、アンドロイドは僕に問う。
「今なら行っても良いのかもしれないよ」
青い惑星を指差して答えた。
「いけません、それは繁栄の書23巻4章に記載されています。太陽系の青い星には二度と触れてはならない。と」
そんなことは知っている。何十回も読んだ場所だ。けれど、僕の好奇心は止められないのだ。
「もしかしたら君にとっても住み心地の良い場所かもしれない」
「いけません、湿度が高い場所では私はすぐに金属が劣化を起こして死んでしまうでしょう」
アンドロイドなのに死んでしまうとは奇妙なものだけれど、僕のような人間と違って、彼女は水気に弱いのだろう。
「一度は行ってみたいものだけれど」僕はしれっと着陸用の端末にふれてから自然と本をとる。彼女には衛生制御のモジュールは組み込まれていない。分からないに違いない。
「そのように本を読んで貰えれば、私は安心です」彼女はいつものように本の山に腰掛けた。「けれど、たしかに美しい星です、もし叶うのであればあの場所で…」
やっぱり行きたいんじゃないか。僕はその辺に浮いている本をとる。人類の記録は以外にも少なく、この本も何度読み返したかわからない。けれど僕にとっては、唯一の娯楽だった。
Stella storia。星の本らしい。図鑑とかそういうのではなく、なんだか創作の様な話をいくつも載せた、いわば短編小説と言うもの。この船には論文の様な本は沢山のっているのに、こうした娯楽向けの本はあまりない。好きな本の一つだ。さて、今日はどこから読もうか。
夏の大三角形のおとぎ話から、読んでみようか。
ゆっくりと、船体が傾くのがわかる。嘘を隠した子供のように、僕はアンドロイドに目をやった。その優しい目は、窓の外のきれいな星を眺めていた。口が動く。
「ただいま」

#3 Driving like a star

Driving like a star

波のおと、凪の海。
潮風がなでたゴツゴツの防波堤。空は闇…というわけでもなく、ほんのり霞色を残していた。どこかの国では日が沈んだこの瞬間の蒼がもっとも美しい街の景色を映し出すという。小さな石粒の固まった感触を感じながら、腰を落ち着ける。
まだ寒い。甘く見ていたが、コートも来てくるべきだっただろうか。肩をすぼめて縮こまると、なんだかすごく独りだ。一人なのは事実だけれど。
ポケットから少ししなびてしまった便箋を取り出して、目を通す。
半年前、下駄箱に入っていた差出人不明の白封筒。一瞬ラブレターかと期待してしまったけれど、そういうわけでもないらしかった。
『38.930725641806255/ 139.79879915714264 ☆』手紙にはいわゆる女子の文字でそう書かれていた。封筒を逆さまにすると、なんだか紫色の結晶まで入っていた。謎だ。
いたずらにしか見えなかったが、僕は暇つぶしがてら調べてみることにした。こんな手紙が届いていたのだ、特別を求めずにはいられない年頃の男子としてはワクワクせずにはいられないだろう。
調べてみると、どうやら数字は場所を示している。結晶はアメジストで、日付を表しているようだ。残りは☆だけれど、星が見える時間ということだろうか。
そんな勝手な妄想を繰り広げた挙句、今に至る。これで何も起こらなかったら、わりと黒歴史として成立できる内容だと思う。本当にいたずらだとしたら、テトラポッドの陰から誰かが撮影していてもおかしくない。そうしたら明日から一気にクラスの人気者だ。そうだったとしたら、それはそれでピエロになって楽しむしかないね。
空を見上げる。一番星が力強く輝いていた。
隣に誰か、居るような気がした。

届いてるかな。今日が最期なんだからさ、今日ぐらいは、願いがかなってくれてもいいと思う。私の出したお便りが、どこかの誰かに届いていますように。
遠くに山、多分ここも山。草原の様に草の覆う丘に、私は座り込む。独りだった、もちろん。
膝にぎゅっと顔を埋めて、「よし」と気合を入れる。もう信じるしかないよね。手を上げて、一番星を指で指す。
「みえる?あの星をつなげるとね、羽の生えた馬の様にみえるんだって。昔の人は想像力が豊かだったんだね、私にはよくわからないよ」
一番星のポラリス。それが見える時間指定したのは私だけれど、送れる情報量が小さすぎて、伝わっているかどうかすら怪しい。明日の終わりに向けて、転送装置の容量制限にリミットがかかってしまったせいだ。
「キレイだよね。星間航行ができたら、星の海を渡れるのにね。あ、あそこに光ってる3つの星みえるかな。他の季節のほうが良く見えるんだけど、私は今の季節の方が空気が澄んでて好きだなぁ…あ、あそこのあれ、なんだか四足の動物みたいだよねっ。あとあれあれっ人の形みたいに見えないかな」
ただ独り、独り言を繰り返す。見ないようにしていたけれど、背後には空の半分を覆う様に星が見えていた。これだけ大きいと、見えてしまうね。涙がこぼれそうになるのを、必死に抑える。
「誰かと一緒に、見たかったなぁ」

こだまの様に、耳鳴りの様に、残響の様に。声が聞こえた。右から聞こえる。誰も居ないのだけれど…どうやら星のはなしをしてくれている。まるで宇宙旅行をしている様に、星から星へ、「僕ら」は旅をしてゆく。

ペガサス。デネブ、アルタイル、ベガ。アンドロメダ。ライオン。ペルウセウス。沢山の星をなぞる。そこに誰かいると願って、独り言を投げる。「二人で星の海を渡れたら、良かったのにね」
ふと耳を波がなでた。

「二人で星の海を渡れたら、良かったのにね」
耳うつ音の波。海の潮とは違う。女の子の声だった。隣を見ても、誰一人居なかった。
「もしかして誰かいるのか」演技半分、疑問半分。半信半疑。もしもを声にして訪ねてみる。

「誰か居るのか」はっとなって隣を見る。誰も居なかった。

無人防波堤。独り。声を頼りに、手をのばす。

温かい腕のようなものが、私に触れる。私は手を取る。暖かくて、切なくて、嬉しくて。でもよく見ると何もなかった。手の温度や圧力はこんなにも伝わるのにね。私は手を離して空をさした。
「あれがね、ポラリス。私達の目印だよ。あの一番星から始まってね、今終わるの」
ポラリスを巨星が覆う。段々と大地を闇が覆う。風が強くなって、座っていることすら難しくて。最期に暖かさが欲しくて、手をのばす。お願い、そこに居て。
触れた手が暖かくて、沢山涙が溢れてきた。

空に赤い光が光った。

ー2月21日。天体望遠鏡が初の惑星衝突を観測。観測所DLstの報告による。詳細はまだ公開されていないが、数年前に発見されたスーパーアースの一つと、その付近の星がぶつかった際に発生したと思われるレッドトランジェントの撮影に成功したとの発表が在った。

#4 Twins

Twins

- Black Side -

生まれた時は、二人だった。
気付いた時は、一人だった。
互いを互いに知っているのに、私たちは触れ合ったことも、話したこともない。すれ違ったことですら。
本当は手を触れたかった、本当は話したかった。抱き合って手を回し、頭をなでて上げたかった。けれど知っていたから、しなかった。求める妹の姿を尻目に、遠ざけることだけを繰り返す。繰り返す。
私たちは星だから。
2つの出逢いは沢山の終わりだから。
遠くに見えて、本当は手を伸ばせば届く距離だった。
近くに見えて、星の使命が何度もあの子を遠ざけた。
でももう良いんじゃないかな。もうそろそろ良いんじゃないかな。
あの子を、抱きしめても良いんじゃないかな。
黒い姿に合わぬ白い手が、自然とあの子へ伸びてゆく。

- White Side -

うずくまっていました。諦めて。
何度も求めて、何度も願って、何度も繰り返して見たけれど。
お姉ちゃんは幾度も拒絶した。
あんなにも、心を映した瞳を残して。
本当は触れたいんでしょう?
本当は抱き合いたいんでしょう?
好きも憎いも言い合って、本当は喧嘩したりしたかったでしょう?
知ってるよ、姉妹だもの。私だって、したいもの。
星の周期が互いを寄せ合う頃、何度も私は手をのばす。
何度でも、何度でも。
けれど今回は諦めてしまった。もういいかなって。頑張らなくてもいいかなって。
髪とおんなじ様に薄い肌色の脚を、頭に寄せてうずくまる。

- Other Side -

今日は世界の終わりの日、2つの星が出会う日だ。昔から何度もささやかれていた。「あの星とこの星が○月○日に衝突する」と。その度にニアミスしては何事もなく、何千年と繰り返してきた。記録によればね。
よくある話だ、科学者が言うことは9割方嘘であろうと、誰もが一種の共通認識として脳内に焼き付けられて久しく、マスメディアはもはや「また今年もデマで話題を作っている」という報道内容でしか語らなくなってしまっている。
けれど狼少年だって、最期には本当のことを言っていた。
あたりが騒がしかった。逃げる人や終焉を、願い狂う人々を締め切っていたカーテンに隙間を作って一瞥する。
空に目をやってみた。黒い大きな星が空を、まるで誰かを求めるように埋めていった。
一瞬、誰かが手をこちらに伸ばしている様な錯覚にとらわれる。
手をのばす。風だろうか、ガラス片が私に数百の小さな風穴を空け、吹き飛ばされてしまった。突風はやがて屋根を吹き飛ばし、圧力となってこの家を、この大地を、この星を、飲み込んだ。

#5 She drop on the sea

She drop on the sea

ただ黒い空に身を任せ、過ぎゆく時を眺めていました。時はキラキラとした線となって、数え切れないほど横切ってゆく。あとどれだけこの時間を数えればいいのでしょうか。何度も私は問いかけた。誰にでしょうね。
どこかで、
割れるような、
弾けるような、
ぶつかるような、
叫ぶような、そんな音がしました。確かに。
首を巡らせて探ります。珍しいものは何処かしら。
きっと一生を費やしても二度と見ることが出来ない、これは星と星との衝突でしょう。
幾ばくかの時が過ぎれば、それは強い磁気となって私に降り注ぐ。想いが熱波となって、私にぶつかる。願いは心を締め付けて、私を満足させるに違いない。せっかくの出来事です、その光すらも目に焼き付けておきたいです。
私の願望も、首と同じく巡らせる。
みつけた。足元。
思ったより近かった。近すぎた。
足元にあるそれは、どうしようもない引力で私を惹きつける。
知らぬ間に、二人の重力は私を一瞬で惹きつけていた。
まって、足元から、足元から。最期は美しく。つま先から体を沈ませます。
ああやっと。
誰とも出会わない時間が終わります。
次は誰かと出会えるでしょうか。
誰かを想えるでしょうか。
誰かは私を、想うでしょうか。
これはおそらく刹那の光景。私は光と闇に落ちる。黒色の海に。

#6 Quolesea

放課後の教室って好き。なんだか日常が非現実になったみたいでね。静寂と遠くに沢山の声が静かに響いて…廊下には誰も居なくてね。ここにも。消えた蛍光灯が少し私を不安にさせるところとか。まるで全部が私を置いて、どこかに行ってしまったみたい。
頬杖ついて眺めた窓からは夕日が差していて、校門からまばらに歩いてゆく生徒が見えた。そのなかに二つ陰。私は目を奪われる。朱の斜陽が教室を照らして、まるで私のこころも焦がすようだった。
古い友だち。幼馴染。悪友。どれも当てはまる。
遠いあの日、交わした約束もあった気がする。今となってはよくある過去の過ちだと思う。子供だったからかな、あの頃はもっと近かったはずなのに。校門まで歩けば3分くらい、すごく遠く感じた。
頬杖を付いていない方の手で窓をなぞる。体温よりも少し暖かなしずくがいくつも古びた机へ落ちた。雲は一つも見当たらない。
夕日が町並みに落ちてゆく。それをゆっくりとなぞる。私も帰ろう。
「ほんとにいいの?」胸の中で私が尋ねる。立ち上がろうと力を入れようとしていた私は力を緩めた。
「まだ遅くない」
そうかな?
「今行けば、隣の陰は私の陰にできる」
そうかな…。
「だめでも良いじゃない、結果が今と同じなら今も未来も同じこと!」
そうだね。
通学バッグすら置いて、私は駆け出した。ところどころひび割れたリノリウムが、ケシケシと静かな廊下にこだました。危ないけれど、階段も少しジャンプする。一つ一つ階段を降りてゆくたび、過去の言葉がリフレインする。
靴箱を曲がったところで、焦るあまり靴箱の角に体があたって転んでしまう。頭と鼻をぶつける。明日はこぶが出来ているかもしれない。髪がくずれてしまったけれど、気にしなくてもいいくらい、追いかけたかった。
校門を過ぎて、切り裂く空気が髪を解く。彼まであと少し、二つの陰が並んでいた。3つの陰が道に落ちる。
夕日が落ちた。陰を隔てる嫌な光は沈んでしまった。気持ちを隔てるものは、もうどこにもない。彼の名前を叫んだ。
男子高生がこちらを向く。同時に隣の女子高生もこちらを向く、怪訝な顔をしていた。
「どうした」ボロボロの私をみてこちらに小走りする彼。
息を切らして膝に手を付く。司会に彼の脚がうつった。肩に当てようとしていた手を、強引に引っ張る様に支えにして、私は立ち上がる。彼の顔越しに、暗くなった空が見えた。数日前から見える赤い星が輝いていた。
「ついていっていいッ?」
少し不思議な顔をして、彼はぷっと吹き出した。「早くカバンもってこい」
ハハハといつもの様に笑う彼に、もう一つ投げつけてやる。「あとね」
「ん?」と彼がこちらを見る。いまだ、言ってやれ。
私の口が、彼への想いを音にする。

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